妊娠中に関するコラム

出生前診断の倫理的権利とは|WHOが定める「ママの知る権利」「リプロダクティブヘルス/ライツ」を知っておこう

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お腹の赤ちゃんのことを妊娠中に調べられる出生前診断。なかでも、2013年から導入された新型出生前診断(NIPT)の受検者数は、年々増加しています。しかし、その一方で、「命の選別になるのでは」といった倫理的問題を指摘する声も。ここではその問題点と現在の考え方について、日本産婦人科学会の見解を踏まえながら、わかりやすくご説明していきます。出生前診断を受けるか迷っている方は参考にしてください。

出生前診断ってどんな検査?

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まずは、出生前診断の検査内容や受けるメリットを見ていきましょう。

出生前診断の検査内容

出生前診断は、赤ちゃんの形態異常や染色体異常を調べる検査です。

形態異常(奇形などの見た目でわかる異常)を調べられるのが、妊婦健診で行われるエコー検査。つまり広い意味では、ほとんどのママが出生前診断を受けていることになります。

染色体異常を調べられるのが、母体血清マーカー検査・コンバインド検査・新型出生前診断(NIPT)・絨毛検査・羊水検査です。ここでは、ママの血液でわかる新型出生前診断の検査項目をまとめました。

【新型出生前診断でわかること】
・13トリソミー
・18トリソミー
・21トリソミー(ダウン症)
・ターナー症候群
・トリプルX症候群
・クラインフェルター症候群
・ヤコブ症候群
・1p36欠失症候群
・ウォルフ・ヒルシュホーン症候群
・クリ・デュ・チャット症候群
・プラダー・ウィリー症候群
・アンジェルマン症候群
・ディジョージ症候群

このほか、赤ちゃんの性別もわかります。
なお、上記の染色体疾患がすべてわかるのは、当院「プレママクリニック」で検査を受けた場合。施設によっては、検査項目を13トリソミー、18トリソミー、21トリソミーに限定しているところもあります。

出生前診断を受けることによるメリット

妊娠中は、まだ見ぬ赤ちゃんを思い不安になることもあるでしょう。出生前診断は、ママとご家族の「知る権利」を尊重して行う検査です。検査により不安が払拭されれば、安心して出産やその後の育児に臨めるでしょう。

また、赤ちゃんについて知った上で迎える準備ができることも、メリットのひとつです。疾患がわかっていれば、出産前から市町村や支援団体とつながっておくこともできます。

このことから出生前診断は、ママやご家族だけでなく、赤ちゃんにとっても有意義な検査であるといえるでしょう。

出生前診断の倫理的問題

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メリットがある一方、出生前診断については賛否両論があるのも事実です。検査への反対意見の多くは、「命の選別になるのでは」という考えによるもの。出生前診断では、必ずしも「陰性」の結果が出るとは限りません。「陽性」の結果を受け取り、どのような選択をすればいいのか悩む場合もあります。

また、「生まない権利も保障されるべき」、「障害のある方への差別に繋がるのでは」という2つの意見にはジレンマも。どちらの意見にも賛成という方もいると思いますが、出生前診断では2つの価値観が衝突する可能性があるのです。

このように、出生前診断をめぐってはさまざまな議論がなされています。

新型出生前診断を受けたママたちの意見

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新型出生前診断を受けた方の感想を見てみましょう。

「陽性の場合も、早くから心の準備をしたり産後やるべきことを勉強したりできるため、受けてよかった」
「不安な気持ちでいるよりは早くわかった方がいいと思う」
「夫婦で赤ちゃんのこと、今後のことを話し合うきっかけになった。より絆が深まったと感じる」
「検査を受けた時点で、命の選別をしてしまったのでは…という罪悪感がある」

プラスの意見が多いですが、やはり倫理的問題で悩んでいる方もいらっしゃいます。

出生前診断の倫理的問題に対する考え方

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厚生労働省が公開している日本産婦人科学会の見解資料を参考に、出生前診断に対する現在の考え方をご紹介します。

女性の人権を考える上で重要な「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」の概念、女性がおかれている環境、妊娠に伴う身体的負担についてそれぞれ見ていきましょう。

リプロダクティブ・へルス/ライツ

世界保健機関(WHO)は健康について、世界保健憲章で以下のように定義しています。

「健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあること」

この健康の定義に基づく考え方が、「リプロダクティブ・ヘルス」です。女性の性や生殖に関する健康についての概念で、身体的・精神的・社会的に本人の意思などが尊重され、自分が望むように生きられる状態が健康であるとしています。

そして「リプロダクティブ・ライツ」とは、「リプロダクティブ・ヘルス」を守るための権利です。具体的には出産するかしないか、いつ何人生む かをすべての個人とカップルが自己決定し、そのために必要な情報や手段を入手できることを指します。

「リプロダクティブ・へルス/ライツ」は、出生前診断の倫理的問題について考える上で大変重要な概念なのです。

女性がおかれている環境

厚生労働省の資料では、女性がおかれている3つの環境について触れています。

女性の社会進出に伴い共働きが必要な社会

女性の社会進出を促すための法律としては、1986年施行の男女雇用機会均等法、1999年施工の男女共同参画社会基本法などがあります。過去には「女性は家庭に入るもの」という考え方が浸透しており、女性が教育すら満足に受けられない時代もありました。

しかし、国の取り組みなどにより働く女性が増加。その結果、1980年に約614万世帯であった共働き世帯数は、2000年には約929万世帯、そして2020年には約1,245万世帯に増えています。

男女共同参画社会が実現されていない社会

前述のように、男女共同参画社会基本法の施行などにより、女性の社会進出が進んだことは確かです。一方で、女性管理職の割合が低い、女性の勤続年数が短いなどの課題も残っています。

1人目を妊娠した女性のうち、どのくらいの方が退職をしているのか知っていますか。答えは約6割(2015年調べ)。妊娠・出産を理由に解雇される、あるいは自主退職を強要されるなどのマタハラ(マタニティハラスメント)が、問題視されています。また、仕事と子育てを両立するための支援が充実していないことも、退職理由の1つでしょう。女性の社会進出が進んでいるスウェーデンなどと比較すると、十分な環境が整っているとはいえません。

さらに、固定的性別役割分担意識が強く残っていることも、女性の社会進出を阻む原因であるといえます。

固定的性別役割分担意識とは、男性は仕事、女性は家庭など、性別を理由に役割を固定的にわける考え方。このような考え方により、女性の家事・育児における負担が大きくなり、社会進出したくてもできない現状があるのです。

妊娠に伴う大きな身体的負担

妊娠すると、ママの身体にはさまざまな変化が起こります。血液量が約50%増加することで、心臓や腎臓には負担がかかり、場合によっては、不整脈を自覚することもあるでしょう。妊娠初期に多くのママが経験するつわりも、程度によっては身体に負担となることがあります。さらには、妊娠高血圧症候群などの合併症を発症する可能性も、ないとはいえません。

このような身体の変化はママにとって大変大きいもの。仕事をしている方は、体調不良で休まざるを得ない状況も出てくるでしょう。

ここまでにご説明してきた状況にありながら、女性は妊娠した瞬間に、赤ちゃんの将来を引き受けるための覚悟が求められているのです。

ママは赤ちゃんについて知る権利がある

日本産婦人科学会は、「リプロダクティブ・へルス/ライツ」の概念や現状を踏まえた上で、以下のように結論づけています。

まずは女性の「知る権利」。妊娠中の女性には、それがどのような妊娠でどのような赤ちゃんなのかを、知る権利があるとしています。

また、出生前診断を受けるかどうかは、「極めて個人的な問題」であるとの記載も。つまり、出生前診断については、ママの生き方や考え方が尊重されるべきとの見解です。

出生前診断はママの「知りたい」に応える検査

出生前診断で指摘されている倫理的問題点や、産婦人科学会の見解についてご紹介しました。「赤ちゃんのことを知りたい」と思ったとき、ママには知る権利があるのです。

NIPT専門のプレママクリニックは、「知ること」「備えること」に意義があるとの考えから、年齢の制限なく誰でも受けていただきやすい体制を設けて検査を行っています。新型出生前診断を検討している方、迷っている方は一度ご相談ください。

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